老人ホームの日々是晴れ、曇り日記

医師の訪問診療に同行する薬剤師です。老人ホームに入る前の準備や日々の頭の中を綴ってます。

女性の謝るはちょっとある

先日事務職員が辞めると言い出した。

この狭い薬局内で犬猿状態の女性事務員がいた。一方は言いたいこと半分も言えないような女性、一方は仕事テキパキの女性。2人とももう開局当時からいる10年クラスの職員だから、やられてる方はある意味ガミガミ言われ慣れてしまっていた。何かミスを見つけられようもんなら「ここはなんでこうなのか、ここはこうじゃ無いのか、前にも注意しましたよね」の3連発ノックアウトを公然とやられていた。周りの人間も慣らされてしまって本当はうんざりしてても改めてその態度を注意する事はなかった。

そんな状態でも事務員同士なんとなくいたわりあって折り合いをつけて上手くやっていた毎日だった。当薬局は事務員が15名も在籍していて隠れ蓑があるので、苦手な人間を避けて働ける職場なのだ。ところがある日その女性が薬剤師にまで噛み付いた。

「〇〇先生が泣いちゃったの…」(当薬局では薬剤師の事を先生付けで呼ぶ)

そのオチまで聞いたところで「ふむ、こりゃマズいね」と判断した。

事務と薬剤師の不必要な対立を生みたくないし、話しなきゃだめか。

ちょうど会社の職員面談の時期にあたっており、普段の様子とこれから想定される事態を報告した。

早々に彼女は本部管理者から呼び出され面談を終えたところで泣きじゃくりながら私の肩でこう泣いていた。

「先生、今までごめんね、私もう辞めるわ。もう無理だわこんな会社。私、私、本当にごめんね。」

 

’そんな事言わないで、辞めちゃだめだよ〜‘なんて安っぽい気休めは言わなかった。

ただ背中をポンポンとしてあげていた。

ウチの薬局はこんな他者を攻撃するようなメンタリティを持った人間はいないのだ。

みんな何かの事情を抱えているが、お互いへの協力や思いやりが自発的に湧いてくる職場なのだ。そしてその行為はあからさまではなく、まるで家族に話しかけるかの様にフランクに声をかけ合っている。女性が総勢20名、男性2名もいてなかなか他には無い雰囲気を持った職場だと思っている。

 

狭い職場で泣きじゃくる人間が1人いると、聞きつけた同僚が数人集まってくる。

そうなると私の意に反して「そんな事言わないで、辞めちゃだめだよ〜」と言う人間が出てくる。彼女は本当は私に真っ先に引き止めてもらいたかったのだろうが、なかなか言ってもらえなかったので終着点を失いつつあった。その矢先救世主とも言える言葉をかけてもらえた事で段々とニュアンスが変わり、「〇〇さんに謝ってくる」と言い出した。

私の本心はこうだった。「その態度改めなさい」だけだ。だが謝ると言っても懸念が一つあった。’女性の謝る‘は難しいのだ。彼女は昔離婚を経験しお子さんと強引に引き離され、もう12年会っていない女性だった。どんなにつらい想いをし、している事か。

でも直せなかったんだと思う。その物の言い方が。結婚している過程で何度も自分の態度を改めようと努力はしたと思う。でも結局出来なかった。その過去を想うと「あなたのその態度は社内でも問題で・・・」と言う出だしから話を切り出す事は出来なかった。

女性は心底、それこそ本当の本当に心から相手(ご主人の嫌な面)を自分の中で許さないとまたいつか必ず態度に現れてしまうのだ。したはずの謝罪がいつの間にか消え失せてしまう。感情に伴なう記憶を長期保存してしまう女性の脳の特徴とも言える事実。

「女性はね本当に難しいの。心から謝るって事が…」と主語を‘あなた’では無く、‘女性’にし、その夜彼女と真剣に話をした。

変わるだろうか。40過ぎた女が本当に変われるのか過剰な期待はせずとも、私も彼女と共に歩んでみよう。